Digit!

日常で起こる様々な現象に、ツッコんだりボケたりするブログ。

新作落語『白黒テンテン物語』

上野動物園のパンダを見ていて、新作落語のアイデアが生まれてきました。とある動物園のバカバカしいお話になっています。

『白黒テンテン物語』

柏動物園では、数十年ぶりにパンダの出産に成功した。動物園の近くの商店街は大フィーバー。パンダパン、パンダコロッケ、パンダ仏壇などなど、「パンダ」を頭に付ければ、どんな商品でもバカ売れの状態に。生後3ヶ月後にパンダの赤ちゃんをお披露目するということで、人々はみんな待ちわびていた。


木村「園長!大変です!」
園長「どうした木村くん?顔色変えて。」
木村「パンダのテンテンのことなんですが、今朝様子を見に行ったら、体が白くなってるんです!」
園長「ははは。冗談言っちゃいけないよ、パンダが白くなるなんて聞いたことがあるかい。パンダが白いと、尾も白いとかつまらないジョークはやめてくれよ。どれ…」
(赤ちゃんパンダを見つけて、思わず仰け反る園長。目を擦りながら)
園長「ない。ない。黒い斑点が一つも無いじゃないか…。木村くん!君、剥がした?」
木村「剥がしたって、シールじゃないんですから…。僕も長年パンダの飼育やってましたが、こんなことは初めてです。」
園長「木村くん、一つ聞きたいのだが…この場合は『シロパンダ』になるのかい『シロクマ』になるのかい?」
木村「何バカなこと言ってるんですか!パンダはパンダですよ!」

園長「でもなぁ、木村くん。テンテンのお披露目会は来週に迫ってるんだよ。これでは示しがつかないじゃないか。そうだ!黒い斑点を自分たちで描いてあげよう。」
木村「園長、それ本気で言ってます?そもそも、どうやって描くおつもりで?」
園長「マジックは匂いがキツイからなぁ。他に何かいいものはないかなぁ。」
木村「あっ、園長がいつも使っている、頭にかける黒い粉はいかがでしょう。あれだったらパンダにも無害でしょう。」
園長「く、黒い粉って何のことだい?私はよく知らないぞ。」
木村「園長!今は一大事なんですよ、しらばくれないでください!パンダと自分のプライド、どちらが大事なんですか?」
園長「分かったよ…正直に言うよ。昨年あたりから頭頂部が気になりだしてね、この黒い粉を使っていたんだ。誰にもバレてないと思ったら、やはり付き合いの長い君にはバレていたみたいだね。」
木村「いえ、僕だけじゃなくて動物園のスタッフみんな知ってますよ?飼育員同士で飲み会するときは必ずこの話題になりますもん。ちなみに園長がみんなから何て呼ばれているか教えてあげましょうか?園長のあだ名『スーパーミリオン園長』ですよ。」
園長「もういい!もういい!やめてくれ!君、よく本人の前でズバズバ言えるね。まぁいいや。じゃあ、これ黒い粉だから。(木村に渡す仕草)君頼んだよ。」

木村「(受け取る)えっ、僕がやるんですか?テンテンが可哀想で、僕はちょっと…。えぇ〜、君しかできない?困ったなぁ。いつもこういった役目は僕じゃないですか。わかりましたよ…」
(パンダに粉を振りかける仕草をしながら)
木村「テンテン…ごめんな。ちょっと我慢してくれよ。目の周りが難しいな…あぁ、目に粉が入ってしまった!テンテン暴れないで!あぁ、泣くなよテンテン。そうだよな目が痛いよな。お前が泣くと俺も…うっ、うっ。人情噺に持っていきたいけど、話がバカバカすぎて持っていけねぇよぉ。園長、できましたがどうでしょうか?」
園長「木村くん見事だ!君、才能あるよ。昔やってた?」
木村「やってるわけないでしょ。あぁ、こんなのでダマシ通せるのだろうか。」


それから数日して、テンテンのお披露目会がやってきた。檻の前には、ずらーと並んでいる報道陣の列。お昼の報道番組でも生中継をすることに。

司会「そろそろテンテンのお披露目会が始まるみたいですね。柏動物園から三池アナと中継がつながっています。三池さーん!」
三池「はーい。こちら三池です。私はいま柏動物園に来ています。まもなくパンダのテンテンが屋外に出てくるそうですが…あっ、テンテンです!テンテンが出て来ました!ヨチヨチと歩いていて、とっても可愛いです。思ったよりも模様がはっきりとしているんですねぇ。」
司会「ほぉ、パンダの赤ちゃんってもっと模様がぼんやりしているものと思ってました、意外ですね。今日はコメンテーターで、動物評論家の高橋さんに来ていただいております。高橋さん、模様がはっきりとしているそうですが、これはどういうことですか?」
高橋「えー、パンダの斑点がハッキリとしているのは元気な証拠です。イワシとかヤマメなど斑点がある魚は、斑点がハッキリしているものが新鮮とされていますよね。あれと同じなんですよ。」

司会「そ、そうなんですね。三池アナ他に何かありましたか?」
三池「はい。あ、テンテンが走っています!初めてのお外が嬉しいのか、全力疾走で走っています。ん?汗をかきはじめると、模様がにじんで来ました!」
司会「え、模様がにじんでいる?高橋さん、これは一体どういうことでしょうか?」
高橋「えー、パンダの模様がにじんでいるのは元気のない証拠です。スーパーで売っている魚は白目と黒目がハッキリと分かれているのが新鮮とされていますよね。つまりテンテンも鮮度が落ちてきているんですよ。」

司会「おい、プロデューサー。この評論家大丈夫なのか?え?このまま進めろ?分かったよ。三池アナ何か変化はありましたか〜?」
三池「大変です!厚い雲が動物園を覆ったかと思うと、急に夕立が降ってきました!ものすごいドシャ降りです!」
司会「三池さん!テンテンは無事ですか?」
三池「な、何ということでしょう…。テンテンが黒い涙を流しています!彼氏に振られて号泣しているギャルみたいになっています!いや、目だけでなく全身から黒い水がしたたり…そ、そんな…テンテンが真っ白になってしまいました!」
司会「三池さん、真っ白って本当ですか?パンダが真っ白に…高橋さん、こんなことはあり得るのでしょうか?」
高橋「うーん、私も長年、動物評論家をやってきましたが、こんなケースは初めてです。ちなみにですが、この場合は『シロパンダ』になるのでしょうか『シロクマ』になるのでしょうか。」

司会「おい、スタッフ。こいつをつまみ出せ!何はともあれ、これは大ニュースだぞ!真っ白なパンダが誕生…これは視聴率もうなぎ登りだ!」


世にも珍しいシロパンダが誕生したという噂は世界にも広がり、テンテンは世界規模で大ブームに。柏動物園は毎日大盛況で、テンテンの檻の前には常に人だかりができていました。

木村「いやー園長よかったですね。一時期どうなることかと思いましたが、結果良ければ全て良しですよ。」
園長「本当にそうだな、木村くん。テンテンが雨に濡れて真っ白になったときは、『もうこの動物園も終わったな』と私も顔面蒼白になってたよ。いやはや何がブームになるか分からないもんだね。」
木村「白くなった原因はまだ分かっていないのですが、今思うと日頃の行いが良い我々のために、神様がプレゼントしてくれたのかもしれませんね。」
園長「神様のプレゼントか、君も良いことを言うね。ところで、木村くん。あの時、私のあだ名が『スーパーミリオン園長』って言ってくれたよね?」
木村「え、いや、あの…あ!テンテンのエサやりの時間だ!すみません!」

園長「ちょっと待ちなさい!…あぁ、行ってしまったようだ。けどしかし、黒い粉を勧めてくれたのも、泣きながらもテンテンに黒い粉をかけたのも、全部この動物園を守りたい一心でやってくれたことなんだよな。木村くんには感謝しなくては。」
木村「園長!園長!大変です!」
園長「ちょっと木村くん、後ろから急に話しかけないでくれよ。ちょっとだけ口から心臓が飛び出てしまったじゃないか。どうしたんだい?」
木村「テンテンが…テンテンが…」
園長「テンテンがどうしたんだい?」
木村「テンテンが元の白黒模様に戻ってます!」
園長「そんなばかな!なんてこった…せっかくシロパンダでブームになったのに。神様は何てひどいお方なんだ。そうだ!良いことを思いついたぞ!木村くん、はいコレ。」(木村に渡す仕草)
木村「『はいコレ』って、園長の黒い粉じゃないですか?これをどうするんです?」
園長「今度は、クロパンダで一山当てよう。」