ツツジで思い出す少年時代
家から駅に向かう途中に、ツツジが綺麗に咲いている。赤、白、ピンク。色とりどりで、毎朝が楽しみになってくる。
ツツジを見かけると、思い出してしまう情景がある。
小学校の低学年のころ、校門から校舎へと続く坂道に、ずらっとツツジが植えてあった。昼休みになると男子3人くらいで集まって、無我夢中でツツジの蜜を吸っていた。吸ったことがある人はわかると思うが。ツツジの花をむしり取り、ラッパの根本の部分をちゅうちゅうと吸うと、そこから甘い汁が出てくる。大して美味いというわけでは無いのだが、砂糖水を薄めたような甘みが、妙に心地よかった覚えがある。あまりに吸いすぎて、先生からツツジ禁止令が出されたほどだ。(シンナーやコカインと比べると健全ではないか)
男ばかりで吸っていたのだが、そんな中に一緒に混ざってくる女の子がいた。何十年前のことなので、名前は覚えていない。ただ、ピースをしたときに指がぎこちなく曲がることだけは覚えている。すごく変わっていて内向的な女の子だったのだが、なぜか僕とは馬があっていた。その女の子が一緒にツツジを吸ってきたのだ。
女の子がツツジを吸う姿を見ていて、男子3人組はなんとも言えない不思議な感覚に陥っていた。自分たちもツツジを吸っていたが、目線は完全にその子の口を見ていた。熱く込み上げるものを抑えて、ツツジの淡い甘さに神経を集中させる。だけど、ちゅうちゅうという官能的な音に意識が持っていかれそうになる。僕らは夢中になっていた。
数ヶ月後、その女の子は転校した。取り残された3人の男は、ツツジの花が散り切った植木を眺めていた……
僕がツツジを見たときに思い出すのは、そんな蜜のように淡い甘さの思い出だ。