手賀沼珍道中
春の陽気に誘われて、ウォーキングとやらに行ってみた。
僕が働いている五反田の職場は、上司いわく「動物園の匂い」がするらしい。確かに男どもが密集し、パソコンの熱気のせいかモンモンと獣臭がわき立っているような気もする。不思議なもので檻の中にずっといると、獣臭に気づかないのだが、上司の一言のせいで妙に気になってきてしまった。何てことだ。
檻の匂いのせいで雄猿が暴れ始めそうなので、ここは散歩でもさせてリフレッシュしてもらわないと……という算段だ。
せっかく散歩するなら、湖沿いの遊歩道をウォーキングしてみたくて千葉県の手賀沼に行ってみた。湖でなくて沼というところが、雄猿の僕にはしっくりと来る。しかし沼といえども風光明媚な場所で、昔は志賀直哉などの文豪が居住していたくらいだ。水面には葦が生い茂り、サギが足を洗っている。のどかな雰囲気に、日ごろの疲れを忘れて歩いていた。
ふとタンポポが無いか気になり、遊歩道の草むらに目をやる。最近知ったのだが、タンポポの在来種と外来種を見分ける方法があるらしい。見分けるポイントは、花を包む「総苞外片」という部分だ。
写真でいうと、下側のナスのヘタみたいな所だ。ここが外側へクルンと反っていたら外来種で、花を覆っていたら在来種というわけ。日本にあるタンポポはほとんど洋モノらしいので、大和撫子はいないかと探してみた。
……しかし、探せど探せどタンポポの姿が無い。最近異常気象が多いとはいえ、こんな暖かい日にタンポポが無いのはおかしい。早足で探していたら、絶滅した理由がようやく分かった。
3歳ぐらいの男の子が、あちらこちらにあるタンポポを根こそぎ引き抜きビニール袋に入れていた。おそらくタンポポ摘みのつもりであろうが、もはやタンポポ罪だ。歩けど歩けど目の前の花は摘み取られていく……結局在来種を見つけることはできなかった。
雄猿はがっくしと肩をうなだれ、手賀沼のほとりに目をやる……そんなセンチメンタルなお猿さんに届けます。手賀沼ジュンと岡田亜紀で『恋して手賀沼』。