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日常で起こる様々な現象に、ツッコんだりボケたりするブログ。

『投資レジェンドが教える ヤバい会社』は就活生におすすめしたいビジネス書。

「トンボが低く飛ぶと、明日雨が降る。」

 

昔からある言葉だが、これには理由があって。雨が降る前は、空気中の湿気が多くなる。その水分がトンボの羽にまとわりつき、高く飛べなくなるというわけだ。なるほど。ただの迷信でなく、因果関係があるみたいだ。

 

では、こちらはどうか?

 

社内でスリッパに履き替える会社は、経営が悪くなる。」

マジかよっと突っ込みたくなる内容だが、これはレオス・キャピタルワークス代表取締役をしている藤野英人さんの「スリッパの法則」である。(名前もうちょっと良いのあったやろ…)

こちらは因果関係というよりも相関関係に近いのだが、スリッパに履き替える理由が「会社と家は同じようなもの」とか「アットホームっぽい」からとか漠然とした精神論で、非合理的な制度がまかり通っている会社は、経営もうまく行きづらいらしい。ちなみに、これは相関なので必ず経営が悪くなるというわけではないので悪しからず。

 

藤野英人さんは「ひふみ投信」でファンドマネージャーをしていて、投資しても大丈夫そうな「成長する企業」を見極めるのが仕事だ。そのときに、先ほどのスリッパの法則のような指針を利用している。

 

いくつかあげると…
・美人すぎる受付嬢がいる会社は危ない。
社内結婚が多い会社は儲かっている。
・会議室にホワイトボードがない会社は、風通しが悪い。

『投資レジェンドが教える教える ヤバい会社』(藤野英人著/日経ビジネス人文庫)より抜粋

 

法則だけ見ると眉唾もののような感じだが、本で理由を読んでみると「なるほどね」と意外と的を得ているものが多いと感じる。会議室や社長室などは一般人は確認できないですが、企業のウェブサイトやIR広告は確認できるので、個人投資家も実践できそうな法則が詰まっていた。

 

ちなみに、投資家だけではなくて、就活生にも役立ちそう。

 

大企業に勤めれば安心って思っている学生や、ベンチャー起業に入ってバリバリ稼ぎたいって学生が結構多いですが、「入りたい会社はこの先安泰か?」と見極めている人はかなり少ない。まぁ、どうやって入るかばかり気を取られて、どんな会社に入るかに気が回らないのはしょうがない気もするが…。

 

就活しているひとは、この本を読んで「ヤバい会社」かどうかをまず見極めるべきだと思う。見てくれの良さだけに惑わされず、企業の本質を見極めてほしい。企業研究は念入りに、批判的な目を持って取り組むべきだ。

 

フィリピン中華料理屋さん

お昼休みは外に出て食事をしている。みなさんはお店選びするときの基準はなんだろうか?

味?安さ?僕は「客の少なさ」を基準に選んでいる。

 

行列に並びたくない、早く料理を出して欲しいということもあるが、何よりも人が少ないと居心地が良いのだ。行列ができるラーメン屋だと、列に並んでいるひとからの「はやく食えよー」という無言の圧力があるが、行列のできない店はそれがない。

 

ただし、客が少ないのにはそれなりの理由がある。味がそこまで美味しくない、店主に愛嬌のカケラもない、ロケーションが悪いetc…。まぁ、こればかりはしょうがないですよねぇ。

味はそこそこ保証されてて、客が少ない店が個人的に最高ですわ。

 

ちなみに、五反田によく行く中華料理屋があるのだが、ここはお昼時に行っても客が少ない。味もそこそこ良くて、値段も安い。行列ができるポテンシャルは持っているとは思うが、いかんせん店長の接客がウザすぎる。店長は北京出身の50代くらいのオバちゃんなんだが、野菜炒め定食を食べていると「オニーサン、爽ヤカネー。イケメンネー。」と話しかけてくる。五反田という場所もあり、フィリピンパブに来たみたいだ。フィリピンパブみたいな中華料理屋。アジアをぎゅっと詰め込んだようなお店だな。この前なんて、「オニーサン、私ノ息子二似テルネー。写真見ル?」と言われて写メを見せられた。どう反応すればいいんだよ!

 

こういった東南アジア系の雰囲気が苦手な人には、ちょっと行きづらいかもしれないが、ぼくはこの雑多としたアットホーム感が好きだ。

 

ただ、客が少ないということは潰れるリスクもかなり高い。何度行きつけのお店が潰れて、涙をのんだことか…。フィリピン中華料理屋は潰れて欲しくないので、お金があるときはプチプラの料理でも頼んであげるか。といってもフカヒレなんて高級品は手が出せないので、カニ入りチャーハンくらいなんですけどね。オバちゃん!給料日まで待ってくれ!それまで潰れてくれるなよ。

 

おわり

 

 

恵比寿〜目黒を散策してみた。ヱビスビール、目黒のさんま、そして寄生虫。

目黒といえば思い出すのが、落語の『目黒のさんま』。

 

目黒不動へ参拝しに、目黒へやってきたお殿様。どこからともなく秋刀魚を焼く香りが漂ってくる。江戸時代、秋刀魚は下魚(げうお)と呼ばれていて、お殿様が食べるような代物ではなかった。家来が止めるのを振り切って、脂の乗った秋刀魚をパクリ。こりゃ美味い。あまりの美味しさに夢にまで出るほどだ。 

 

そんな話を聞いた黒田筑前守。悔しく思ったのか、房州(千葉県)の網元から秋刀魚を手に入れる。だが、料理人が要らぬ世話をやき、脂と塩気をすっかりと取り除いてしまった。ちっとも美味しくないと言う黒田守にお殿様は、「やはり秋刀魚は目黒に限る」。

 

お殿様の知ったかぶりが面白い、有名な話です。今日は「目黒のさんま」のゆかりの地を散策してみました。

 

まずやって来たのが、JR山手線の恵比寿駅。ヱビスビールが先にあって、恵比寿という名前が付けられている珍しい駅だ。せっかく恵比寿に来たなら行くしかないでしょ。ってことで恵比寿ガーデンプレイスにあるビアホールへ。

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赤レンガの建物がシックな「ビアステーション」。

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真昼間でしたが、生ビールの誘惑には勝てませんな。エールビールと黒ビールを半々にあわせたハーフ&ハーフを注文。さしずめビール界のマツコデラックス。スッキリとした性格ですが、ちょっぴりクセのある発言が心地よい。

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外に出ると、金色のオブジェクトを見つけました。浅草のアサヒビールタワーに金色のウ◯コがありますが、「あれのパクリかな?」とアホなことを考えつつあとにしました。

 

そこから目黒川の方へ向かうのですが、高台になっているので至るところに坂があります。途中で出会ったのが「茶屋坂」と呼ばれる坂。

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周りは住宅地ばかりで、いたって普通の坂ですが、実はここは「目黒のさんま」と関係があるのです。坂の中腹に看板があったので見てみましょう。

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この茶屋坂には「爺々が茶屋」があって、鷹狩に来ていた将軍がよく休憩に立ち寄っていたらしい。今は高層ビルばかりで富士山を望むことができませんが、風光明媚な土地だったのかと江戸時代に思いを馳せます。

 

坂を下り、目黒川沿いを散歩。桜の時期には人がごった返しますが、この時期は歩きやすいですね。

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橋の下にオシャレなペイントがしてあって、思わぬ発見が楽しい。ちょっとしたアートに触れられます。

 

目黒新橋で川を渡り、少し歩くと奇妙な博物館を見つけました。

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それがこちらの「目黒寄生虫館」。ありとあらゆる寄生虫の標本をまとめているニッチな博物館。施設は小さいのですが、標本のバリエーションは多いですね。8.8mのサナダムシなど、かなり強烈な見た目で、グロテスク好きにはたまらない内容です。

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ちなみに僕が一番気に入ったのが、このウミエラビル。ムーミンのニョロニョロみたいでかわいいっすね。

 

ちなみに秋刀魚には、アニサキスやサンマヒジキムシが寄生していることがあります。生で食べるときは注意しましょうね。

 

寄生虫館をあとにし、そこから瀧泉寺を目指します。この瀧泉寺に、今回の散策の目的でもある目黒不動が祀られているのです。

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階段を上ると、朱色の本殿が目の前に広がります。この不動明王さまを参りに殿様も来ていたかと思うと、何だかご利益が凄いありそうな気がします。財布に入っていた53円を賽銭箱に投げ入れ、足が疲れているので無事に帰れますよーにとお願いしておきました。

 

そのあと再び目黒川を渡り、心臓破りしそうな坂をのぼりまして、山手線の目黒駅へとたどり着きました。無事に到着できたのは不動明王さまのお陰でしょうか?いや、そんなわけはねぇか。 

 

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↑今回歩いたルート。

 

 

 

創作落語『五個入り団子』

惚れっぽい人というのは、いつの時代でもいるもので。ちょっと服装を褒められただけ、ほんのわずかばかり手が触れただけでも、気になっちゃう男はたくさんいます。僕もその一人なんですけどね。ハハ〜ンあの子俺のこと好きだな…とすぐに思いこんでしまう「勘違い男」の話をお一つ。

 

(玄関を開け、仕事場に突然あがってくる八五郎)
八五郎「おい、熊さん!ちょいと聞いてくれよ。どうせ、いま暇だろ?」
熊五郎「お前なぁ、いきなり入って来て、どうせ暇だろとは何だよ。失礼な野朗だ。いま仕事をしてるんだ、見たら分かるだろ?」
八「仕事?あぁ、それ仕事していたのか。」
熊「木材にカンナかけてるんだぞ、どう見ても仕事だろ。」
八「え、木材?奥さんの足にマッサージオイルでも塗ってるのかと思ったよ。」
熊「バカ。確かにカカアの足は太ぇけどなぁ…。木材と比べるんじゃねぇよ。木材に失礼だろ。」
八「おいおい、足の方が太いのかよ。」
熊「まぁ、今ちょうど仕事に区切りがついたんで、休憩しようと思っていたところだ。で、話って何だ?」
八「ああ、話ね。忘れるところだった。この通りの先に団子屋があるだろ?」
熊「ああ、あそこの団子屋ね。」
八「で、そこの看板娘におみっちゃんってのがいるだろ?」
熊「おみっちゃんか。知ってるよ。器量が良くて接客もうまいから、男衆に人気なんだよなぁ。この前聞いた話だとファンクラブもあるらしいな。」
八「そうそう、そのおみっちゃん。あの子な…俺のことに惚れてるんだと思うんだ。」
熊「何かと思ったら、またそんな話かい。お前はいつもそうやって惚れられたって話してくるけど、一度たりとて本当だった試しがねぇじゃねぇか。どうせまた勘違いだろ。」
八「今回ばかりは本当なんだって。俺の話を聞いてくれたら、熊さんも納得してくれると思うんだ。」
熊「へぇ、そうかい。じゃぁ話しておくれよ。タバコ吸いながら、新聞読みながら、鼻くそほじりながら聞いてやるよ。」
八「すごい屈辱的なんですけど…。まぁ、いいや聞いておくれよ。あの店の団子っていつも4個入りだろ?」
熊「ああ、確かそうだったな。」
八「でも、俺が行くときは、なぜかときどき5個入りになってるんだよ。それ見たとき、俺はピーンと来たね。あれは、おみっちゃんからのメッセージなんだよ。口で言うのは恥ずかしいから、遠回しに伝えてるんだよなぁ。団子が5個で、ア・イ・シ・テ・ルのサイン。」
熊「どこかで聞いたことがあるフレーズだな。どうせ5日、15日、25日…5のつく日は団子デーで、サービスしてくれたとかそんな所だろ?」
八「いや、サービスとかそんなんじゃねぇと思うんだ。他にもあるよ!お釣り渡すときに手がそっと触れるんだ。すると、おみっちゃんは顔をポッと赤らめる。ウブだねぇ。そのあと、帰り際に『また来てね』って行ってくれるんだぜ?また来てねって言われちゃあ、行くしかねぇよな。しょうがねぇ女だなって思いながら、明日もそのまた明日も行っちゃうわけだ。くぅ〜。おみっちゃんは俺がいないと寂しいんだろうな。」
熊「『また来てね』なんて当たり前だろ。『もう来んな』っていうお店があるかよ。お前と俺の仲だ。この際だからハッキリ言わせてもらうが、そりゃあ脈ナシだな。」
八「脈ナシ?脈無かったら死んじまうよ?ほら、手首押さえるとドクドク鳴ってるよ。」
熊「そうじゃなくて、お前の勘違いって意味だよ。お前は女慣れしていないから、こういう勘違いを起こしてしまうんだ。そうだ、吉原にでも行って耐性を付けておこうじゃねぇか。お前一人で行かせるのは心配だからな、俺も一緒について行ってやるよ。」
八「吉原かぁ、俺ぁ初めて行くから怖いな。煮たり焼いたりして食われねぇかな?」
熊「お前は女を何と思ってんだよ。地獄じゃあるめぇに。俺がついて行ってやるんだ、どーんと大舟に乗ったつもりでいれば大丈夫。まかせとけ。ただ、残念ながら、今日は持ち合わせの金がねぇんだ。女遊びの楽しさを俺が教えてやるから、授業料として肩代わりしてくれるよな?」
八「何でぇそれが目的かい。まぁ、女に慣れていないのは確かだ。今日は熊さんにまかせるよ。」

 

 

その日の晩、2人は柳橋から舟を出し吉原へ向かう。お座敷でもって宴会を始め、ちょうどいい頃合いに芸者を呼ぶことに。
熊「おーい、ちょいと来ておくれ。芸者を呼んでほしいんだがな、こいつにとびきり器量のいい子をつけてくれよ。」
八「ちょっと熊さん、待ってくれ。最初からべっぴんさんは危険じゃねぇか?お風呂だってかけ湯は足からかけたほうが良いって言うだろ、頭から一気にかぶったら心臓発作で死んじまうよ。まずは、とびきりブサイクから始めるのがいいと思うんだ。」
熊「とびきりブサイクなんて俺がお断りだよ。せっかく吉原まで来たんだ…そうだ、では間をとってとびきり普通の芸者を呼ぼうじゃないか。それならいいだろ?では、そういうことだから女将さん、とびきり普通の芸者ね、頼んだよ?」

熊「お、芸者さん来たみたいだね。どうぞ入ってくださいな。あらま、こりゃ見事なほど普通だね。この八公って奴が、芸者遊びが初めてなんだ。よくしてやってくれよ。」
八「へっへっへっへっ、お酌していただけるんですが、いやいやありがてぇや。あっしは冷やでお願いしますね。おっとっと、そんなに並々に注がなくても、おっとっとっとっと…。あぁ〜こぼしちゃった!自分で拭きますから大丈夫ですよ。え?お姉さんが拭いてくれるの?いやいやいやいや、そんなとこまで拭いてくれるのかい?あぁ〜!」
熊「もうちょっと静かに飲めねぇのかよ?まぁ、お前が楽しんでくれたら良いんだけどね。」

 

三味線、都々逸、お座敷遊び。女と料理を肴にどんちゃんさわぎ。最初はどぎまぎしていた八五郎もべろんべろんに酔っ払って、気が大きくなる。一刻ほどたった頃、芸者が少しばかり席を外すと…
八「熊さん、遊びってのは楽しいねぇ。こんなに女性と触れ合えるなんて、おれぁ夢心地だよ。」
熊「そうか。それは良かったな。」
八「ところで熊さん、一つ頼みごとがあるのですがぁ〜」
熊「おう、何だ?」
八「おれぁ気づいちゃったね、あの芸者さぁ、おれに“へ”の字だよ。」
熊「への字?お前、それを言うならホの字。臭そうな字を書くんじゃねぇよ。」
八「あっはっは、そうそう!ホの字、ホの字!」
熊「また出ちゃったよ、こいつの悪い癖が。あのな、芸者ってのは客に惚れないもんなの!お前の勘違いだよ!」
八「それは普通の客の場合だろ?おれは例外なの!見てみろ、このくっきりとした目、富士山よりも高い鼻、歌舞伎役者のようにスッと整った唇。こんな良い男を一目見ちゃうと、どんな芸者だってイチコロよ?」
熊「いい眼科医、紹介してあげようか?」
八「うるさいうるさい、嫉妬するんじゃねぇよ!ブルドックをプレス機にかけたような顔しやがって!」
熊「何でぇ、口が悪いなぁ!こいつは一度痛い目をみないと分からねぇみたいだな。だったら、俺にも考えはあるよ。」

 

するってぇと熊五郎は座敷を飛び出し、廊下を歩いていた芸者の元へ。コソコソと口裏を合わせて、何もなかったかのように座敷に戻って来た。
熊「八公、さっきはごめんな。惚れちゃいないと頭ごなしに決めつけるのは野暮だよな。俺はいけねぇことを言っちまったよ。」
八「そうだよ。わかればいいんだよ、このプレスドック。」
熊「もうすぐ芸者が戻ってくるらしいから、その時に告白してみたらどうかい?お前ほどの美男子が告白すれば、相手も黙っちゃいねぇだろ。絶対成功するから、ガツンと行ってこいよ!」
八「当たりめぇよ。俺を誰だと思っていやがる?言われなくても告白してやらぁ。お、芸者が帰って来たみてぇだな。」
芸者「ただいま戻りました。」
八「おう、おう、おう。芸者さん、あんた俺に惚れてんだろ?何も言わなくても分かってらぁ、黙って俺に着いて来な。」
芸者「だまらっしゃい、この勘違い男!さっきから、あちきの体をジロジロと眺めちゃって、セクハラでお奉行様にかけよるわよ!くっきりとした目、富士山のよりも高い鼻、歌舞伎役者のように整った唇ですって?あんたなんか、切り傷みたいな細い目で、高尾山みたいに丘か山かよく分からない鼻で、辛子明太子みたいなタラコ唇なのよ!あんたみたいなドブネズミをプレス機にかけた男なんて嫌ですわ!」
八「な、何でぇ。そこまで言わなくたっていいだろー!死んでやらぁー!」

 

八五郎はあまりのショックに泣きながら、座敷を飛び出す。それを見ながら、ゲラゲラと笑う熊五郎。
芸者「ねぇ、熊さん。あんなに酷いこと言っても良かったの?」
熊「いいんだ、いいんだ。あいつはあれくらいビシッと言ってやらねぇと治らねぇんだよ。ショック療法ってやつだ。これで勘違い男も治るだろ。」

 

 

所変わって、吾妻橋吾妻橋といえば落語では有名な自殺の舞台。八五郎はあまりの悲しさに、橋の上で身投げしようとやって来た。
八「くそぉ、あそこまで言わなくたって良いじゃないか…。熊さんの言う通り、俺ってやっぱり勘違い男なのかな。1人で女に浮かれて1人で勘違いしてやがる、これじゃバカみてぇじゃねぇかよ。俺みたいな男なんて生きていたってしょうがねぇよな。そうだ、身投げしてやろう。このまま独り身で生きていくなら未練はねぇや…」
おみつ「ちょっと待って、八五郎さん!」
八「え。どうしたんでぇ、おみっちゃん?」
おみつ「お店の戸締りをしていたら、泣きながら走り抜ける八五郎さんを見かけて、心配になって追いかけて来たの。」
八「おみっちゃんは優しいな。けど申し訳ねぇ、俺はもうこの世に未練はねぇんだ。女性に惚れられちゃあいねぇのに、勘違いしてしまう阿呆なんて死んでしまったほうがマシだよ。」
おみつ「八五郎さんは勘違い男なんかじゃない!だって、あたいは八五郎さんのこと前から気になっていたんだよ?」
八「え。」
おみつ「団子だって八五郎さんが来たときには、店長に頼んで5個入りにしてもらっていたの。気づいていないと思うけど、実はあれ、ア・イ・シ・テ・ルのサインだったんだよ?」
八「えー!?」
おみつ「だからさぁ、死ぬなんて言わないでおくれよ。あたい、八五郎さんがいない世の中なんて、寂しくて生きられないわ。八五郎さんが死ぬなら、あたいも死にます…」
八「おみっちゃん、大丈夫だよ。もう身投げするなんて言わないよ。」
おみつ「本当?」
八「ああ、もう川に飛び込むのはやめた。これからは一緒に恋に溺れよう。」 (完)

ツツジで思い出す少年時代

家から駅に向かう途中に、ツツジが綺麗に咲いている。赤、白、ピンク。色とりどりで、毎朝が楽しみになってくる。

ツツジを見かけると、思い出してしまう情景がある。

 

小学校の低学年のころ、校門から校舎へと続く坂道に、ずらっとツツジが植えてあった。昼休みになると男子3人くらいで集まって、無我夢中でツツジの蜜を吸っていた。吸ったことがある人はわかると思うが。ツツジの花をむしり取り、ラッパの根本の部分をちゅうちゅうと吸うと、そこから甘い汁が出てくる。大して美味いというわけでは無いのだが、砂糖水を薄めたような甘みが、妙に心地よかった覚えがある。あまりに吸いすぎて、先生からツツジ禁止令が出されたほどだ。(シンナーやコカインと比べると健全ではないか)

 

男ばかりで吸っていたのだが、そんな中に一緒に混ざってくる女の子がいた。何十年前のことなので、名前は覚えていない。ただ、ピースをしたときに指がぎこちなく曲がることだけは覚えている。すごく変わっていて内向的な女の子だったのだが、なぜか僕とは馬があっていた。その女の子が一緒にツツジを吸ってきたのだ。

 

女の子がツツジを吸う姿を見ていて、男子3人組はなんとも言えない不思議な感覚に陥っていた。自分たちもツツジを吸っていたが、目線は完全にその子の口を見ていた。熱く込み上げるものを抑えて、ツツジの淡い甘さに神経を集中させる。だけど、ちゅうちゅうという官能的な音に意識が持っていかれそうになる。僕らは夢中になっていた。

 

数ヶ月後、その女の子は転校した。取り残された3人の男は、ツツジの花が散り切った植木を眺めていた……

 

僕がツツジを見たときに思い出すのは、そんな蜜のように淡い甘さの思い出だ。

男は秘密基地が大好きだ。子どもだって、大人だって、誰だって。

男は秘密基地が大好きだ。

 

子どもの頃には、誰しも秘密基地の一つや二つはあっただろう。小学校から下校するとき、そのまま家に帰らずによく秘密基地に寄っていた。秘密基地といっても一から自分たちで作ったものではなく、近くの農協組合の事務所の屋上を間借りしていた。間借りといっても、無許可で占領していたわけだが……

 

事務所の裏側には、錆びついた階段が屋上までかかっていて、誰も使っていなかった。おそらく大人が登ったら、すぐにでも壊れそうなほどのボロボロ加減。小学生の僕らは、錆びていない部分を踏みながらトントンと登っていた。大人には来れないという、何とも言えない優越感に浸っていたわけだ。

 

ちなみに秘密基地で何をしていたかというと…うーん何してたんだっけな。いたずらの作戦を練ったり、世界征服をしたりといった目標もないので、適当にダベっていた気がする。家にある漫画を持ち寄って読んだり、遊戯王カードで遊んだりしていたなぁ。今思えば、別に秘密基地でやる必要なかった気がする。けど、子どもだけで集まれる場所っていうのは、すごく気が楽だった。子どもの社交場ってやつかな。

 

子どもだけでなくて、大人も秘密基地が大好きだ。行きつけのバー、馴染みの居酒屋、女房に内緒のスナック。これらも秘密基地の一種だ。仕事も家庭も忘れて、ありのままの自分でいられる場所。それが大人のための秘密基地。

最近、秋葉原で日本酒の飲める居酒屋を見つけた。ここは誰にも紹介するつもりは無い。

だって僕の秘密基地なのだから。

「笑いやすさ」と「笑いにくさ」の話

先週の日曜、どこの寄席かははっきりと言わないが、S本演芸場に行ってきた。いつもは昼の部に行くのだが、調子を変えて夜の部にしてみた。休日の昼の部は立ち見が出るほどの大入りになるが、夜の部はそれと比べると“小入り”だ。人と人の間にちらほらとスキマもできていた。

 

そのときに思ったのだが、人数が少ないとどうしても笑いづらい。たしかに、家族で食事をするときは大笑いしても気にならないが、一人で飯食っているときに大笑いしてたら気持ち悪いもんな。噺家さんも笑いが起きづらいとやりにくいようで、枕に小噺を入れまくって、笑える環境になるように必死に作っていた。

 

ちなみに大人数いると、そこまで面白くなくても大笑いが起こる気がする。一人大きな笑い声の人がいると、笑いが伝播していき、最終的は寄席全体に笑いが広がる。雰囲気、空気感、そして間。ここらへんは笑いの根本だと思う。笑いって難しい…。