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日常で起こる様々な現象に、ツッコんだりボケたりするブログ。

創作落語『五個入り団子』

惚れっぽい人というのは、いつの時代でもいるもので。ちょっと服装を褒められただけ、ほんのわずかばかり手が触れただけでも、気になっちゃう男はたくさんいます。僕もその一人なんですけどね。ハハ〜ンあの子俺のこと好きだな…とすぐに思いこんでしまう「勘違い男」の話をお一つ。

 

(玄関を開け、仕事場に突然あがってくる八五郎)
八五郎「おい、熊さん!ちょいと聞いてくれよ。どうせ、いま暇だろ?」
熊五郎「お前なぁ、いきなり入って来て、どうせ暇だろとは何だよ。失礼な野朗だ。いま仕事をしてるんだ、見たら分かるだろ?」
八「仕事?あぁ、それ仕事していたのか。」
熊「木材にカンナかけてるんだぞ、どう見ても仕事だろ。」
八「え、木材?奥さんの足にマッサージオイルでも塗ってるのかと思ったよ。」
熊「バカ。確かにカカアの足は太ぇけどなぁ…。木材と比べるんじゃねぇよ。木材に失礼だろ。」
八「おいおい、足の方が太いのかよ。」
熊「まぁ、今ちょうど仕事に区切りがついたんで、休憩しようと思っていたところだ。で、話って何だ?」
八「ああ、話ね。忘れるところだった。この通りの先に団子屋があるだろ?」
熊「ああ、あそこの団子屋ね。」
八「で、そこの看板娘におみっちゃんってのがいるだろ?」
熊「おみっちゃんか。知ってるよ。器量が良くて接客もうまいから、男衆に人気なんだよなぁ。この前聞いた話だとファンクラブもあるらしいな。」
八「そうそう、そのおみっちゃん。あの子な…俺のことに惚れてるんだと思うんだ。」
熊「何かと思ったら、またそんな話かい。お前はいつもそうやって惚れられたって話してくるけど、一度たりとて本当だった試しがねぇじゃねぇか。どうせまた勘違いだろ。」
八「今回ばかりは本当なんだって。俺の話を聞いてくれたら、熊さんも納得してくれると思うんだ。」
熊「へぇ、そうかい。じゃぁ話しておくれよ。タバコ吸いながら、新聞読みながら、鼻くそほじりながら聞いてやるよ。」
八「すごい屈辱的なんですけど…。まぁ、いいや聞いておくれよ。あの店の団子っていつも4個入りだろ?」
熊「ああ、確かそうだったな。」
八「でも、俺が行くときは、なぜかときどき5個入りになってるんだよ。それ見たとき、俺はピーンと来たね。あれは、おみっちゃんからのメッセージなんだよ。口で言うのは恥ずかしいから、遠回しに伝えてるんだよなぁ。団子が5個で、ア・イ・シ・テ・ルのサイン。」
熊「どこかで聞いたことがあるフレーズだな。どうせ5日、15日、25日…5のつく日は団子デーで、サービスしてくれたとかそんな所だろ?」
八「いや、サービスとかそんなんじゃねぇと思うんだ。他にもあるよ!お釣り渡すときに手がそっと触れるんだ。すると、おみっちゃんは顔をポッと赤らめる。ウブだねぇ。そのあと、帰り際に『また来てね』って行ってくれるんだぜ?また来てねって言われちゃあ、行くしかねぇよな。しょうがねぇ女だなって思いながら、明日もそのまた明日も行っちゃうわけだ。くぅ〜。おみっちゃんは俺がいないと寂しいんだろうな。」
熊「『また来てね』なんて当たり前だろ。『もう来んな』っていうお店があるかよ。お前と俺の仲だ。この際だからハッキリ言わせてもらうが、そりゃあ脈ナシだな。」
八「脈ナシ?脈無かったら死んじまうよ?ほら、手首押さえるとドクドク鳴ってるよ。」
熊「そうじゃなくて、お前の勘違いって意味だよ。お前は女慣れしていないから、こういう勘違いを起こしてしまうんだ。そうだ、吉原にでも行って耐性を付けておこうじゃねぇか。お前一人で行かせるのは心配だからな、俺も一緒について行ってやるよ。」
八「吉原かぁ、俺ぁ初めて行くから怖いな。煮たり焼いたりして食われねぇかな?」
熊「お前は女を何と思ってんだよ。地獄じゃあるめぇに。俺がついて行ってやるんだ、どーんと大舟に乗ったつもりでいれば大丈夫。まかせとけ。ただ、残念ながら、今日は持ち合わせの金がねぇんだ。女遊びの楽しさを俺が教えてやるから、授業料として肩代わりしてくれるよな?」
八「何でぇそれが目的かい。まぁ、女に慣れていないのは確かだ。今日は熊さんにまかせるよ。」

 

 

その日の晩、2人は柳橋から舟を出し吉原へ向かう。お座敷でもって宴会を始め、ちょうどいい頃合いに芸者を呼ぶことに。
熊「おーい、ちょいと来ておくれ。芸者を呼んでほしいんだがな、こいつにとびきり器量のいい子をつけてくれよ。」
八「ちょっと熊さん、待ってくれ。最初からべっぴんさんは危険じゃねぇか?お風呂だってかけ湯は足からかけたほうが良いって言うだろ、頭から一気にかぶったら心臓発作で死んじまうよ。まずは、とびきりブサイクから始めるのがいいと思うんだ。」
熊「とびきりブサイクなんて俺がお断りだよ。せっかく吉原まで来たんだ…そうだ、では間をとってとびきり普通の芸者を呼ぼうじゃないか。それならいいだろ?では、そういうことだから女将さん、とびきり普通の芸者ね、頼んだよ?」

熊「お、芸者さん来たみたいだね。どうぞ入ってくださいな。あらま、こりゃ見事なほど普通だね。この八公って奴が、芸者遊びが初めてなんだ。よくしてやってくれよ。」
八「へっへっへっへっ、お酌していただけるんですが、いやいやありがてぇや。あっしは冷やでお願いしますね。おっとっと、そんなに並々に注がなくても、おっとっとっとっと…。あぁ〜こぼしちゃった!自分で拭きますから大丈夫ですよ。え?お姉さんが拭いてくれるの?いやいやいやいや、そんなとこまで拭いてくれるのかい?あぁ〜!」
熊「もうちょっと静かに飲めねぇのかよ?まぁ、お前が楽しんでくれたら良いんだけどね。」

 

三味線、都々逸、お座敷遊び。女と料理を肴にどんちゃんさわぎ。最初はどぎまぎしていた八五郎もべろんべろんに酔っ払って、気が大きくなる。一刻ほどたった頃、芸者が少しばかり席を外すと…
八「熊さん、遊びってのは楽しいねぇ。こんなに女性と触れ合えるなんて、おれぁ夢心地だよ。」
熊「そうか。それは良かったな。」
八「ところで熊さん、一つ頼みごとがあるのですがぁ〜」
熊「おう、何だ?」
八「おれぁ気づいちゃったね、あの芸者さぁ、おれに“へ”の字だよ。」
熊「への字?お前、それを言うならホの字。臭そうな字を書くんじゃねぇよ。」
八「あっはっは、そうそう!ホの字、ホの字!」
熊「また出ちゃったよ、こいつの悪い癖が。あのな、芸者ってのは客に惚れないもんなの!お前の勘違いだよ!」
八「それは普通の客の場合だろ?おれは例外なの!見てみろ、このくっきりとした目、富士山よりも高い鼻、歌舞伎役者のようにスッと整った唇。こんな良い男を一目見ちゃうと、どんな芸者だってイチコロよ?」
熊「いい眼科医、紹介してあげようか?」
八「うるさいうるさい、嫉妬するんじゃねぇよ!ブルドックをプレス機にかけたような顔しやがって!」
熊「何でぇ、口が悪いなぁ!こいつは一度痛い目をみないと分からねぇみたいだな。だったら、俺にも考えはあるよ。」

 

するってぇと熊五郎は座敷を飛び出し、廊下を歩いていた芸者の元へ。コソコソと口裏を合わせて、何もなかったかのように座敷に戻って来た。
熊「八公、さっきはごめんな。惚れちゃいないと頭ごなしに決めつけるのは野暮だよな。俺はいけねぇことを言っちまったよ。」
八「そうだよ。わかればいいんだよ、このプレスドック。」
熊「もうすぐ芸者が戻ってくるらしいから、その時に告白してみたらどうかい?お前ほどの美男子が告白すれば、相手も黙っちゃいねぇだろ。絶対成功するから、ガツンと行ってこいよ!」
八「当たりめぇよ。俺を誰だと思っていやがる?言われなくても告白してやらぁ。お、芸者が帰って来たみてぇだな。」
芸者「ただいま戻りました。」
八「おう、おう、おう。芸者さん、あんた俺に惚れてんだろ?何も言わなくても分かってらぁ、黙って俺に着いて来な。」
芸者「だまらっしゃい、この勘違い男!さっきから、あちきの体をジロジロと眺めちゃって、セクハラでお奉行様にかけよるわよ!くっきりとした目、富士山のよりも高い鼻、歌舞伎役者のように整った唇ですって?あんたなんか、切り傷みたいな細い目で、高尾山みたいに丘か山かよく分からない鼻で、辛子明太子みたいなタラコ唇なのよ!あんたみたいなドブネズミをプレス機にかけた男なんて嫌ですわ!」
八「な、何でぇ。そこまで言わなくたっていいだろー!死んでやらぁー!」

 

八五郎はあまりのショックに泣きながら、座敷を飛び出す。それを見ながら、ゲラゲラと笑う熊五郎。
芸者「ねぇ、熊さん。あんなに酷いこと言っても良かったの?」
熊「いいんだ、いいんだ。あいつはあれくらいビシッと言ってやらねぇと治らねぇんだよ。ショック療法ってやつだ。これで勘違い男も治るだろ。」

 

 

所変わって、吾妻橋吾妻橋といえば落語では有名な自殺の舞台。八五郎はあまりの悲しさに、橋の上で身投げしようとやって来た。
八「くそぉ、あそこまで言わなくたって良いじゃないか…。熊さんの言う通り、俺ってやっぱり勘違い男なのかな。1人で女に浮かれて1人で勘違いしてやがる、これじゃバカみてぇじゃねぇかよ。俺みたいな男なんて生きていたってしょうがねぇよな。そうだ、身投げしてやろう。このまま独り身で生きていくなら未練はねぇや…」
おみつ「ちょっと待って、八五郎さん!」
八「え。どうしたんでぇ、おみっちゃん?」
おみつ「お店の戸締りをしていたら、泣きながら走り抜ける八五郎さんを見かけて、心配になって追いかけて来たの。」
八「おみっちゃんは優しいな。けど申し訳ねぇ、俺はもうこの世に未練はねぇんだ。女性に惚れられちゃあいねぇのに、勘違いしてしまう阿呆なんて死んでしまったほうがマシだよ。」
おみつ「八五郎さんは勘違い男なんかじゃない!だって、あたいは八五郎さんのこと前から気になっていたんだよ?」
八「え。」
おみつ「団子だって八五郎さんが来たときには、店長に頼んで5個入りにしてもらっていたの。気づいていないと思うけど、実はあれ、ア・イ・シ・テ・ルのサインだったんだよ?」
八「えー!?」
おみつ「だからさぁ、死ぬなんて言わないでおくれよ。あたい、八五郎さんがいない世の中なんて、寂しくて生きられないわ。八五郎さんが死ぬなら、あたいも死にます…」
八「おみっちゃん、大丈夫だよ。もう身投げするなんて言わないよ。」
おみつ「本当?」
八「ああ、もう川に飛び込むのはやめた。これからは一緒に恋に溺れよう。」 (完)

ツツジで思い出す少年時代

家から駅に向かう途中に、ツツジが綺麗に咲いている。赤、白、ピンク。色とりどりで、毎朝が楽しみになってくる。

ツツジを見かけると、思い出してしまう情景がある。

 

小学校の低学年のころ、校門から校舎へと続く坂道に、ずらっとツツジが植えてあった。昼休みになると男子3人くらいで集まって、無我夢中でツツジの蜜を吸っていた。吸ったことがある人はわかると思うが。ツツジの花をむしり取り、ラッパの根本の部分をちゅうちゅうと吸うと、そこから甘い汁が出てくる。大して美味いというわけでは無いのだが、砂糖水を薄めたような甘みが、妙に心地よかった覚えがある。あまりに吸いすぎて、先生からツツジ禁止令が出されたほどだ。(シンナーやコカインと比べると健全ではないか)

 

男ばかりで吸っていたのだが、そんな中に一緒に混ざってくる女の子がいた。何十年前のことなので、名前は覚えていない。ただ、ピースをしたときに指がぎこちなく曲がることだけは覚えている。すごく変わっていて内向的な女の子だったのだが、なぜか僕とは馬があっていた。その女の子が一緒にツツジを吸ってきたのだ。

 

女の子がツツジを吸う姿を見ていて、男子3人組はなんとも言えない不思議な感覚に陥っていた。自分たちもツツジを吸っていたが、目線は完全にその子の口を見ていた。熱く込み上げるものを抑えて、ツツジの淡い甘さに神経を集中させる。だけど、ちゅうちゅうという官能的な音に意識が持っていかれそうになる。僕らは夢中になっていた。

 

数ヶ月後、その女の子は転校した。取り残された3人の男は、ツツジの花が散り切った植木を眺めていた……

 

僕がツツジを見たときに思い出すのは、そんな蜜のように淡い甘さの思い出だ。

男は秘密基地が大好きだ。子どもだって、大人だって、誰だって。

男は秘密基地が大好きだ。

 

子どもの頃には、誰しも秘密基地の一つや二つはあっただろう。小学校から下校するとき、そのまま家に帰らずによく秘密基地に寄っていた。秘密基地といっても一から自分たちで作ったものではなく、近くの農協組合の事務所の屋上を間借りしていた。間借りといっても、無許可で占領していたわけだが……

 

事務所の裏側には、錆びついた階段が屋上までかかっていて、誰も使っていなかった。おそらく大人が登ったら、すぐにでも壊れそうなほどのボロボロ加減。小学生の僕らは、錆びていない部分を踏みながらトントンと登っていた。大人には来れないという、何とも言えない優越感に浸っていたわけだ。

 

ちなみに秘密基地で何をしていたかというと…うーん何してたんだっけな。いたずらの作戦を練ったり、世界征服をしたりといった目標もないので、適当にダベっていた気がする。家にある漫画を持ち寄って読んだり、遊戯王カードで遊んだりしていたなぁ。今思えば、別に秘密基地でやる必要なかった気がする。けど、子どもだけで集まれる場所っていうのは、すごく気が楽だった。子どもの社交場ってやつかな。

 

子どもだけでなくて、大人も秘密基地が大好きだ。行きつけのバー、馴染みの居酒屋、女房に内緒のスナック。これらも秘密基地の一種だ。仕事も家庭も忘れて、ありのままの自分でいられる場所。それが大人のための秘密基地。

最近、秋葉原で日本酒の飲める居酒屋を見つけた。ここは誰にも紹介するつもりは無い。

だって僕の秘密基地なのだから。

「笑いやすさ」と「笑いにくさ」の話

先週の日曜、どこの寄席かははっきりと言わないが、S本演芸場に行ってきた。いつもは昼の部に行くのだが、調子を変えて夜の部にしてみた。休日の昼の部は立ち見が出るほどの大入りになるが、夜の部はそれと比べると“小入り”だ。人と人の間にちらほらとスキマもできていた。

 

そのときに思ったのだが、人数が少ないとどうしても笑いづらい。たしかに、家族で食事をするときは大笑いしても気にならないが、一人で飯食っているときに大笑いしてたら気持ち悪いもんな。噺家さんも笑いが起きづらいとやりにくいようで、枕に小噺を入れまくって、笑える環境になるように必死に作っていた。

 

ちなみに大人数いると、そこまで面白くなくても大笑いが起こる気がする。一人大きな笑い声の人がいると、笑いが伝播していき、最終的は寄席全体に笑いが広がる。雰囲気、空気感、そして間。ここらへんは笑いの根本だと思う。笑いって難しい…。

自作落語『お見合いパーティー』を、朗読してもらいました!

以前紹介しました創作落語『お見合いパーティー』ですが、何と朗読していただきました! 朗読してくれたのは、以前より親交のある福梟さん
 
朗読動画を作成してもらっているので、まずはご覧ください。
 
いやぁ、嬉しいですー! 福梟さんは落語を読むのは初めてということですが、しっかりと落語調になっていて聴きやすいですね。自分が作ったものを読んでいただけるのは、作った甲斐があります。
 
動画を送っていたただいた後、福梟さんからメッセージをいただきました。あざます!
初読みとほぼ編集なしなので、御見苦しい箇所があるかもしれませんが宜しくお願いします。
 

福梟(ふくふくろう)さんの紹介

朗読してもらってばかりでは申し訳ないので、福梟さんの宣伝をしておきますね。福梟さんは小説を執筆している作家さんで、代表作品が『それが故に君が好きで』。温かい雰囲気の文体で、読者を包むこむような世界観が特徴。AmazonにてKindle本を出版しているので、ぜひご覧ください。

 

それが故に君が好きで: ボクが君を オレが君を 好きな理由

それが故に君が好きで: ボクが君を オレが君を 好きな理由

 

 お試し版もあります。4月30日〜5月4日の期間で無料公開しています。内容が気になった方は、今のうちに読んでおくべし!

 

それが故に君が好きで: お試し版
 

 

 また、小説以外に動画制作も頑張っています。小説の知名度をあげるために、YouTubeにてさまざまな動画活動をしているとのこと。福梟さんの公式チャンネルもあるのでチェックしてみてくださいな!

最近ハマっている『マストドン』の話。

最近はまっているもの、それは「マストドン」。ポセイドンでも、壁ドンでもありません、マストドンです。

 

たくさんのサーバーに分かれているTwitterライクなSNSで、Twitterが黒板とするならば、マストドンは机の落書きのようなもの。生徒全員には見られないけど、机に近づいた人は眺めることができます。…なんか逆に分かりづれえな。LINEのグループトークみたいなものって言った方が分かりやすいか。

 

サーバーのことは「インスタンス」と呼ばれていて、Pixivが運営しているインスタンスや、奈良県民が集まるインスタンスなど、個別のコミュニティが作られています。共通の趣味の仲間が集まれるのが、面白いところ。

 

マストドンのデメリットを挙げるとするならば、その複数のインスタンスにそれぞれアカウントを作らなくてはいけない所かなぁ。アカウントを登録する作業は別に苦でないのですが、インスタンス間を行き来するのがちょっと面倒……。マルチアカウント対応のアプリとか出てくれると嬉しいですね。今出ているアプリは、iOSだと『Amaroq』、Androidだと『Tusky』。さきほど『Pawoo』がリリースされましたが、どれもシングルアカウントだからなぁ。早く良いアプリ出てきてくれ!

 

もしマストドンやってる人がいたら、フォローしてくださいな。検索欄に「@mosu64@mstdn.jp」を入力する、もしくはhttps://mstdn.jp/@mosu64からリモートフォローしてもらえれば大丈夫です。

 

 

 

 

新作落語『お見合いパーティー』

 カップルが別れるとき、未練がましいのは大体『男』でございますね。昔の彼女の写真をいつまでも残しておいたり、携帯電話のアドレス帳から消せなかったりと、女々しいのが男の特徴でございます。それと比べると、女性は別れ際がサッパリとしておりますね。別れる直前はメソメソと泣いていたのに、別れて数日たつとコロッと男のことなんか忘れてしまいます。男からすると寂しいもんですね。

 

 カップルだけでなくて、熟年夫婦が死別するときも同じでございます。妻が亡くなると、残された男性は魂が抜けたようにぼーっとなる。こりゃ、どっちが成仏したのかよく分かりませんな。このお話もまた、妻を失くした哀しき男の話でございます。

 


息子の妻(以後、妻)「あなた、ちょっと相談があるんだけど。」
息子「どうした?」
妻「お義父さんのことなんだけど……先々月、お母さんが亡くなってから、ずっと縁側でぼーっと外を眺めているのね。あたし、ちょっと心配だわ。」
息子「確かになぁ。」
妻「この前なんて、庭に迷い込んだ野良猫に向かって『エミ子、エミ子…』ってお母さんの名前をつぶやいていたのよ?」
息子「それは、ちょっと重症だなぁ。そうだ、この前チラシで80歳以上限定のお見合いパーティーの案内が来ていたはずだ。気分を入れ替えるためにも行ってみたらどうだろうか?」
妻「へぇー、80歳以上限定のパーティーなんてあるのね。初めて聞いたわ」
息子「高齢化社会と言われているからな。需要があるんだろう。」
妻「気分転換には良いかも知れないわね。行ってみるかお義父さんに聞いてみたら?」

 

息子「なぁ、親父。ちょっといいかな。」
父「おお、エミ子か……!?」
息子「馬鹿!俺だよ!息子と母親間違えるんじゃないよ。」
父「すまんすまん、どうした?」
息子「最近親父ずっとふさぎ込んでいるだろ?気分を変えるためにもお見合いパーティーなんてどうかなぁ」
父「お見合いパーティーは若い人が行くところじゃないか、ジジイが行っても見向きされないだろう。」
息子「いやいや、80歳以上限定のお見合いパーティーらしいんだよ。親父にピッタリじゃねぇか。」
父「80歳以上限定!?そんなのヨボヨボ婆さんしか来ないだろ。」
息子「83歳のヨボヨボジジイが何言ってるんだよ。まぁ、遊びだと思って行ってみなよ。」

 

 

(お見合い会場に父が一人でやって来る)
スタッフ「えー、本日は『80歳以上限定 ドキっ!シニアだらけのお見合いパーティー』にお越しいただき誠にありがとうございます。わたくし、当スタッフの関口でございます。そちらのお父様は、当パーティーは初めてでございますね?」
父「ああ、そうだな。結構人数が集まっているんだな、驚いたよ。」
スタッフ「今はシニア世代でも独り身の方が多いですからね。」
父「そういうもんかね。」
スタッフ「また、当パーティーは、お客様の体調を考慮してサポートは万全でございます。医者2名、看護師5名の医療スタッフがひかえておりますので。めまい、動悸、心不全、恋の病、何でもござれでございます。」
父「恋の病なんて、医者が治せるのかねぇ」
スタッフ「まずは、お手元にありますプロフィールカードにお名前・年齢・特技・年収をお書きください。」
父「はいはい、これね。ここに記入すればいいんだな?えーと、まずは名前からだな。名前は『面接 トオル』。」
スタッフ「履歴書の見本みたいな名前ですね。」
父「うるせぇな。年齢は83歳っと。」
スタッフ「え、83歳なんですか?お若いですねー。」
父「お、そうかい?嬉しいねぇ、何歳に見えるかい?」
スタッフ「えーと、81歳くらいですかね。」
父「ほぼ誤差の範囲内じゃねぇかよ。つぎは特技か。ゲートボールとかでもいいのか?」
スタッフ「もちろんでございます。」
父「こう見えても、ゲートボールの腕前には自信があってね。地域の大会じゃ負け無しだよ?森下町の石川遼って言われてるくらいだよ。」
スタッフ「それは素晴らしい特技でございますね。この前、別のお客様に桜木町のタイガーウッズという方がいらっしゃいましてね。」
父「そいつはさぞかしゲートボールの腕がいいんだろな。」
スタッフ「いえいえ、ただの浮気性なだけです。」
父「なんだいそりゃ。えーと、最後は年収か。ん?80歳以上限定なら、年収を書く欄はあんまり意味がないんじゃねぇか?」
スタッフ「あ、それは年金収入の略でございます。」
父「ややこしいな。えー、月18万円っと。ほれ、書いたぞ。」
スタッフ「ありがとうございます。それではまもなく、お待ちかねのトークタイムがございます。女性陣が座っている所に、男性陣が回っていき、さきほど書いたプロフィールカードを見ながらご歓談くださいませ。ただし一人3分という制限時間がありますのでご注意ください。」

親父「なるほどワシらが回転寿司みてぇに回っていけばいいって寸法だな。しかし3分って短すぎやし

ないか。お年寄りをそんなに急かせるんじゃないよ。おっと、そろそろ始まるみてぇだな。」

 

女性A「ナンバー1番、ツルでございます。」

父「ほぉ、ツルさんね。縁起の良い名前ですな。好きな食べ物とかはありますか?」
女性A「すきな食べ物は、柔らかいものでございます。」
父「柔らかいもの?漠然としてますなぁ。」
女性A「あたくし、歯が悪いもので。硬いものはなかなか噛めないんですの。」
父「私も歯は悪くてねぇ、入れ歯にしているんですよ。」
女性A「あら、そうでしたの。実は私も入れ歯ですのよ。大学病院で特注で作ってもらったので、とっても口にフィットしますの。よろしければ、あなたも着けてみます?」
父「いやいや、お気になさらず。本当に!お気になさらず!入れ歯をパカパカさせるんじゃないよ!気持ち悪りぃババアだな〜。
おいスタッフ、まだ3分たってないの?急げよ。こちとら江戸っ子だから待たせるんじゃねぇよ!ふぅ、ようやく交代か。一人目からアレはたまったもんじゃねぇな。」

 

女性B「ナンバー2番、お富でございます。」
父「はいはい、お富さんね。私の名前は『面接トオル』です。」
女性B「え?」
父「あぁ、ちょっと珍しい名前ですみませんね。『面・接・と・お・る』です。」
女性B「え?」
父「あっ、まさかこのババア耳が悪いんじゃないか?あープロフィールカードにも大きめの声で話してくださいって書いてるよ。」
父(ちょっと大きめの声で)「年は取りたくないものですねー。耳が悪いと生活も大変でしょー?」
女性B「え?」
父「こりゃ重症だな。しかし、年の割に肌ツヤはいいんだよなぁ。」
女性B「そうでしょ?」
父「自分に良いことだけ聞こえてやがる、嫌なババアだねぇ。これじゃ会話にならないだろ、次だ次っ!」

 

女性C「ナンバー3番、石原でございます。」
父「石原さんね。あれ、プロフィールにも書いてないんですが、下の名前は何ていうんですか?」
女性C「それが物忘れが激しくて、名前が思い出せないんですの。この前だってテレビを見ていたら、芸能人の名前がパッと出てこないのよ。坂井真紀、酒井美紀水野真紀水野美紀なんてややこしいから、一つの名前にまとめちゃえばいいのにねぇ。」
父「そんな簡単なもんじゃねぇだろ。いや、芸能人の名前が出てこないのはわかるが、自分の名前を思い出せないのは初めて聞いたぞ?」
女性C「あっ、今思い出しました!」
父「おぉ、何ていうんだい?」
女性C「『さとみ』です。」
父「石原さとみねぇ……疑っているわけじゃなぇけどよぉ。どちらかというと良純(よしずみ)に近いけどな。」
女性C「まぁ失礼ね!突然の落雷のあと、ゲリラ号泣にご注意ください。」
父「やっぱり良純じゃねぇかよ。はい、次!」

 

女性D「エントリー4番、エミ子と申します」
父「えっ、あんたエミ子っていうのかい?うちの前のカカアも、エミ子って名前だったんだよ。」
女性D「えっ、珍しいこともあるんですね。聞きづらいことなのですが、前の奥様ということは、お別れになったのでしょうか?」
父「実はですね。2ヶ月前にカカアが亡くなりまして、それで独り身になっていたんです。ちょっと恥ずかしいんですが、おれはカカアがいないと何もできない男でしてね。胸に穴がぽっかりと空いたような気分で、ぼーっとしていたんですよ。」
女性D「実を申しますと、わたくしも夫を半年前に亡くしまして……。息子に第2の人生を歩んでくれって言われて、重い腰をあげてきたのでございます。」
父「なんだか似たような境遇ですな。そういえばエミ子さん、名前だけでなくて顔つきもどことなくカカアに似ていますね。目もある、鼻もある、口もある!」
女性D「面白い方ですのね。」
父「へへへ。(スタッフに呼ばれるので、肩を払う仕草)えっ、もう3分経った?馬鹿野郎。おめぇは江戸っ子かよ、もうちょっとだけ待てって!エミ子さん、こうやって出会えたのも何かの縁。またお茶にでも行きましょうね! ……あぁ、良い人に出会えたなぁ。こんなドキドキしたのは、いつ以来だろう。ああ、胸が熱い!医者を呼んでくれ!」
医者「どうしました?」
父「胸がズキズキしてるんだ、恋の病にかかったみてぇだ。なぁ、何でも治してくれるんだろ?」
医者「申し訳ございません。この症状は我々の手でも治せないんです。」
父「そんな殺生な!このまま胸が苦しいまま生活しないといけないのか?これじゃあ、お先真っ暗だよ!」
医者「そらそうでしょう患者様、恋は盲目でございます。」